釣り糸の歴史。加藤清澄も使用したテグスの語源って何だ。テグスの由来を追いかける。

刃牙という漫画作品の中での登場人物、加藤清澄が武器として使用したテグス。なぜそんなものを持ってるのかという問いに「釣り好きだからたまたま持ってたってことで」と返しています。

釣り道具と関係があるのでしょうか。しかしテグスって面白い響きですね。(笑)

釣り人ならわかる単語だったかもしれませんが「テグスって何だ?」と思われた方も多いのではないでしょうか。

そんなテグスの語源に迫っていきましょう。

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釣り糸としての存在は間違いない

人類に密接に関わってきた釣り

釣りの歴史になってきますが、この釣りというものは現在の様なレジャーとして存在していたわけではありません。

あなたも予測がつくと思いますが、れっきとした生きる術、漁として存在していました。それこそ遡れば竪穴式住居の時代の出土品にも釣り鉤の存在が確認されているほどです。

そして釣りに必ず必要になってくるのが竿と鉤を一体化させる糸です。

糸の出土は極端に少ない

素材の特性、形態の特徴からでしょうか。動物の骨などを利用した釣り鉤は出土しましたが釣り糸は見つかる事が余りありませんでした。

学者の見解によると、日本では周囲に自生していた麻の繊維を縒って作った糸を使っていたという説が最も有力とされています。植物性である為、バクテリアによって分解されてしまったのかもしれませんね。数少ない出土例からは地域により使用していた糸の素材が異なります。それが以下の物です。

  • 亜麻布=中部ヨーロッパ・ドナウ川沿岸・中部エジプト・ナイル川沿岸・イラン高原・シアルク遺跡・スイス・チューリッヒ湖畔
  • 大麻=日本・福井県三方町鳥浜貝塚・韓国新石器時代後期・中国甘粛省東郷林馬家窯文化期遺址
  • 絹=中国浙江省呉興銭山漾(ぜんざんよう)遺址
  • 綿=パキスタン南部・モヘンジョダロ遺跡
  • 羊毛中国青海トーランヌームホン晋石器時代遺址・イラク・ユーフラテス川流域アル・タール遺跡

テグスの語源は虫

人類は時を重ねる上で、衣服にも必須である素材である事から様々な糸を創り出していきます。そしてそれを釣りにも使用していくわけですね。

では、テグスとは何なのか。答えは表題通り、虫になります。厳密に説明すると蛾の幼虫を利用する事になります。

池に入って魚釣りの仕掛けを投入する外国人男性

ヤママユガ科の昆虫テグスサン

中国では「楓蚕」の名前で呼ばれる蛾になります。翅の開張が9~12cmの中々に大きいサイズの蛾ですね。同様の物であれば世界で唯一の家畜化した昆虫、蚕蛾も繊維を取り出す生産者として活躍していますね。

そしてこの「虫から繊維を取る」という製法は日本ではなく海外から輸入され、【偶然】釣りに使われたんです。

製法は蚕蛾達にとってただの地獄

蚕蛾から絹糸を取る方法はというと、成虫になる為に繭を作ります。その繭を茹でて引き伸ばし精製することで高級衣類に使用される滑らで艶のある肌触りのいいシルクができあがります。

自分達の繭や糸が美しい絹になるなんて名誉です!・・・いえ

全然違います。テグスサンは原料として目をつけられてしまえば悲惨な最期が待っているんです。では、テグスはどのような作り方なのか。

まず幼虫を繭ごと茹でて繭内で処理します。

この時点でもう蚕蛾終了のお知らせとなります。(汗)そしてその後、テグスサンの場合ですと、幼虫にある絹糸腺を取り出して酢に浸します。それから板の上に糸を引き延ばしていき陰干しすれば粗いテグスが出来ています。

ただこの時点では糸の表面が凸凹で滑らかでない為、鉄や銅などの金属板に粗いテグスの直径よりも小さな穴を空け、その穴を通し、凹凸面を削り落として仕上げたものがテグスです。

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釣り糸になった歴史的経緯

文献としては民俗学で有名である宮本常一氏の「海をひらいた人びと」のシリーズ中の「阿波紀行」に明確な記述が残っています。文献をそのまま引用せず、簡略化して説明いたします。

「江戸の初期に堂浦の漁師の一人が大阪に出かけた際、薬問屋が立ち並ぶ修道町で不思議な物を見かけた」と。そしてこれが本記事で語源を追い回されているテグスです。(笑)

そして文書の続きはというと、「その薬問屋で中国から漢方を輸入してあったようだが、それらの生薬を半透明な不思議な糸で縛っているのを見つけた。

そこで漁師はその糸を手に取って引っ張ってみると非常に強度も強く、半透明である事から水中で魚に目立つこともない。」釣り人とテグスのファーストコンタクトですね。そして漁師は店主にこの糸は何だと尋ねます。

すると店主は「これは天蚕子(テグス)だ」と答え、別に捨てる物だし持って行っていいけど何に使うのかを今度は漁師が問いかけられます。

そして漁師は非常に目立たない半透明の外観と強度から釣りに利用しようと考えている事を話すと、薬問屋の店主もそれを良いアイデアと感じ、テグス自体を輸入してもいいと言ってくれます。

その代り、瀬戸内海沿岸の様々な地域を回って、実際にテグスを使用して釣りをしてテグスの需要を高めていって欲しいと頼まれました。

ここで漁師兼テグス実演販売営業マン兼フィールドテスターが生まれました。(笑)

この後、漁師の思惑通り釣り漁は大きく発展する事になります。薬問屋も大儲けできたでしょうね。(笑)この薬問屋は「広田屋」という屋号だったそうですよ。

釣り糸の歴史と進歩

人類の釣り歴史最初期のころは植物の内皮繊維や麻を縒り集めた糸を使用していました。しかしそれで満足している訳ではなく、人は明らかに「糸だ」と分かる状態で魚を釣る事はハンデだと考えていました。

合成繊維ナイロンライン

人類は単繊維のナイロン繊維を発明します。この糸は伸縮性もよく非常に安価につくることが可能な為、多くの人がメインラインとして使われています。非常に使いやすい釣り糸ですが、弱点ももちろんあります。それは以下の通り。

  • 傷に弱い
  • 紫外線を吸収し劣化しやすい
  • 水を吸水し劣化しやすい

ナイロンラインの弱点補助フロロカーボン

まだ満足しきれない人類は次に、ナイロンの弱点でもある擦れ傷の弱さを克服しようと試みます。そして生まれたのがフロロカーボンラインです。

フロロラインはポリフッ化ビニリデンという素材で、名前にも入っている通り炭素(カーボン)を軸にフッ素と水素が何対もついた構造になっています。

ゴツゴツとした岩肌にこすった場合、ナイロンは致命的な傷となり、傷ついた部分を魚に引き千切られてしまう事があります。フロロカーボンはこの岩などに擦れる根ズレに強く、多少こすれて傷がついても強度があからさまに落ちる事はありません。

そして他にナイロンと違う所は光の屈折率が水に非常に近い為、水中に入ると水と同化して見えにくくなる特徴があります。

その為、魚の口元に近い位置にフロロカーボンを使用し、少し離れたところから安価なナイロンラインに連結するという使い方をされることが多いです。

編み込まれた糸PEライン

人類の応用力の高さから、フロロにもナイロンにも足りない要素を持たせたラインを開発します。その結果できたものが、ナイロンやフロロとは属性が全く異なる釣り糸。PEラインです。

ポリエチレンの繊維を縒り合わせた糸で、タコ糸の様に「糸を編んで糸を作っている」と考えていただければわかりやすいかと思われます。

このPEラインの特徴は、「兎に角引っ張り強度が強い」ということ。目安ですがナイロン等と比べれば同じ太さであれば倍以上の強さを誇ります。つまり、強度を落とさずに糸をより細く細くすることが可能という事。

その他のメリットとしては紫外線にも水にも強いという事です。軽いメンテナンスを実施すればそれこそ1年は使用可能な釣り糸です。変わってPEラインの弱点ですが、ナイロンよりもさらに擦れ傷に弱いという事。

なぜ弱いのか、それは「粘りがない為」です。つまりほとんどと言っていい程「伸びない」糸なんですね。だから傷が入った場合、傷を庇うように伸びる事が出来ません。

その為、衝撃のショックを吸収する事が出来ず、力が傷にダイレクトに伝わり傷からぷっつりと切れやすくなります。

人間の性質が分かりやすいラインの歴史

如何だったでしょうか。この釣り糸の歴史を見ると人間の環境適応能力の高さが映し出されていると感じたのは私だけでしょうか。

テグスを使い、ナイロンを使用し量産可能にする。そしてナイロンの弱点を補うフロロを開発し、他に足りない要素を持たせたPEラインを追加する。

これが理由ではなく、人間の適応能力の高さはこれらの糸を使用用途で複数同時使用するという事。

ひとつで全てをまかなう、パーフェクトな素材など早々作れるわけがない事を理解し、お互いの弱点をカバーしてお互いが最大限の力で役割をこなせる環境を作る。

こんなことを緻密にできるのは、人間だけに許された世界なのではないでしょうか。人間の探究心と可能性を見出し解を出す知性にただただ脱帽ですね。

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コメント

  1. なつみかん より:

    幼虫を繭ごと茹でるとはどういう意味ですか?

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